『河口が見えたのに』ーーー34

 俺は、路子の、そのひらつかせている左手首をぐいっと左手で掴んだ。
 路子の表情が辛辣になる。構わず口を口で塞ぐ。
 路子は、心の中で言った。
(私は、自分から、今日は言えなかった。でも、すぐに抱いて欲しかった…) 
 華奢な体は、骨の構造力だけで保たれている。
 雨が継続している。
 俺は彼女のパジャマを脱がせ全ての衣も脱る。自分が下になり、全裸同士のまま下から路子を貫く。
 彼女は太腿を返してはいない。直線の体位のままだ。それなのに、俺たちは繋がっている。くち同士が舌の縺れ合いで繋がり胸と腹はぴったりとくっついている。性器も繋がっている。太腿と臑も密着している。手の長さだけが違うので、お互いの背中を探り合っている。俺は彼女の尻を両手で固定する。吐息のペースが上がってくる。
 急に俺の口のなかに液体がはいってくる。生温かい。彼女の喀血を俺は嚥下する。再び息が浅く速くなる。
 路子が、俺の腋をきつく掴んだ。俺のリンパ節が彼女の爪で破られる。数秒でその力が弛む。
 俺は、まだ続いている。
 同じ口づけと尻への愛撫をつづけながら、再び腰の運動を加速してゆく。俺は、俺の限界の少し手前のペースで運動を続ける。路子の息が、また浅く速くなってくる。また、ゲルの血が俺の喉へ入る。俺は、一定のスピードを固守する。血の排泄で楽になった路子は、又、梯子を昇り始める。その先には、いずれ本当の天国が待っている。息が浅くなる。息が速くなる。そして、やがて彼女は俺の背中の二箇所に爪を立てる。肋骨の少し手前の筋繊維が彼女の爪で切断される。俺は、まだ射精に至らない。そのままの動きの速さで、そして少しペースを一旦さげて又、尻を掴んで加速してゆく。病人の筈の路子の陰唇に彼女の体液は泉の如く分泌されている。果ててしばらくすると泡のつぶれる音がする。そして数十秒後に再び昇り始めると膣の内壁が俺の魔羅を握り始め、猥褻な音はほとんどしなくなる。
 路子が四回果て、五回目のまえにやっと俺は射精した。
 そのまま、俺たちは、しばらく眠りに落ちた。


「回覧です」
 という声で、俺は目覚めた。
 玄関口に老女が立っていた。
 俺と路子は、昨夜の狂態のままだった。
 玄関から俺たちのいる居間は完全に見通せた。
「ふぁ!」
 と、老女は俺たちを見て声を挙げた。
 俺は、俺の脳は緊急避難を指令したが、いかんせん、朝の硬直で路子とはしっかりつながってしまっている。
 老人というのは小狡い。慌ててはいるが退座しようとはしない。
 俺は、慌てるのをやめた。
「そこに置いといて下さい」
 路子は、俺の上で、まだ眠っている。
 男に見られていれば、大層恥じ入るが、老人といえども相手が女なら、それほど堪えないのが救いだった。
 が、老女は、まだ動こうとせず、俺たちの接合部を何とか覗き見ようとしながら、
「あのう、今度の日曜に町内の運動会が有るんで…」
「アンタ! この状態なんや。これ以上そこにおったら覗きやで、犯罪やで、警察呼ぼか?」
 と、俺は言った。
「否、ちょっと、町内の隣保の会合のお知らせも有るし…」
 相手は、相当しぶとい。
 老人は、山に捨てられるべきだ。
「ドアホ!!」
 俺のその一喝でようやく老女は去った。
 玄関を開けたまま。
 『楢山節考』の時代の方がよかったとも言える。医療費の補助を國が老人にしてやるのは考えものだ。
 俺の大声で路子が目を醒ました。

にほんブログ村 小説ブログへ

コメント

PVアクセスランキング にほんブログ村 新(朝日を忘れた小説家)山雨乃兎のブログ - にほんブログ村
タイトルとURLをコピーしました