- 作者: 静, 伊集院
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2002/08/28
- メディア: 文庫
伊集院静さんの、『岬へ』を読みました。
感想
読んでいて、泣くことが多かったです。そんなに、凝った文体ではないのですが、中年になると涙もろくなるのでしょう。
後ろの方の、主人公が岬から日本海を観る場面は、主人公の感動が動的な感覚で、その風景描写から伝わってきます。こういうのを行間から立ち上る〜と言うのでしょう。
しかし、長い分量です。
三田誠広さんが、仰有ってた、文学として書いて面白い(含蓄の有る。書き手によって色々異なる)テーマ(違ってたらご容赦を…)として、家業を継ぐか、継がないで、親と決裂する、とかというテーマも含まれていて、それが主軸です。
その上に何層にも別のテーマが描かれています。
人間は、何の為に生きるのか……。身近な人の死をどう受け入れていくのか……。
そして、後半では、人種差別的な主観で主人公を観ていた(意識はしないが、心の片隅に有った)その意識を越えて、主人公に恋心を打ち明ける幼なじみの女性。そういう、登場人物がどういう人なのかを始めからは明かさない、段々、おいおい読者に訴えてくる書き方です。
主人公の青年は、硬派です。作者の伊集院さんの投影が含まれているとすれば、相当なハードボイルドな一面が有りますね。強い者にでも、果敢に立ち向かっていく喧嘩の場面などもあります。
人間は、身近な人を次々に失っていく定めなのだ、という、その定めから来る喪失感や哀しみに、どう折り合いをつけていくのか……、ということが、おそらくこの本の一番のテーマではないか、と思います。
・伊集院静の他の著作の感想→ 『乳房』 『無頼のススメ』 『作家の愛したホテル』
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