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『第一回、東京家出の記』ーーー9

 杉並での生活にも大分慣れてきた。

 まだまだ、哲学科の大学生の先輩の後について回るだけで手一杯だった。

 所長と、どれだけルートを覚えたかを確認される行程に出た。

 新聞屋の仕事の場合、次の配達先への地図というのが、ト(隣り)、とかY字とか、ハス(斜向かい)、1ト(一軒おいて隣り)とかいう記号によって、分かりやすく書かれているのだった。それでも、僕は、一軒も配達先へたどり着けず、所長の落胆を招いた。

 朝には特に睡眠薬の残っている僕には、配達ルートを覚えるのもままならなかった。

 夜は営業に出た。

 新聞をとってください、と、頭を下げて一般の家をまわるのだ。

 杉並区高円寺の専売所での生活が慣れてきた頃、つまりは、就業してから二週間ほど経った頃、

僕は、ついに、睡眠薬のせいで朝出勤をすっぽかしてしまった。

 枕許の時計を観れば、何と、八時過ぎを指している。

 ごんごんごんごん、ドアをノックする音が聞こえた。

 教えてもらってるのとは別の先輩だった。

 「**、ともかく、所長に謝れ。それだけでいいから」

「ちょっと、もう、僕には無理ですわ。普段、不眠症を持ちながら薬を飲んでの仕事ですもん。こんな日が来るのは分かってました。所長には、その旨説明します。それで、辞めますわ」

「何を言う。余分なことは言わなくていいから、次から気をつけて頑張ったらいいねや」

 そう、先輩専業員に諭されたが、僕は、所長に、自分の持病があって、新聞屋という業種では限界だと正直に伝えた。

「そうか、分かった。それなら、次のところを探せばいい。田舎に帰る気はないのか。……それなら、次の仕事が決まるまで、今のアパートから面接に行ったらいいよ」

 ここの所長にここまで融通を聞いてもらったことを、後に、何という幸福だったのか、と感謝することになる。

 僕は、新たに、東京での仕事を探した。

*次話は、こちら→  『第一回、東京家出の記』10

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 私はこのブログで万年筆の魅力を綴ってきましたが、実は長年、その万年筆を相棒に物語を紡いできた小説家でもあります。

 インクが紙に染み込むように、人の心の奥底にある「光と影」をすくい上げたい——。そんな想いで書き上げたのが、私の代表作**『閉鎖病棟』**です。

 閉ざされた場所で交錯する、剥き出しの人間模様。 作家として「本当に面白い、価値のあるものを届けたい」という一心で、一文字ずつ丁寧に命を吹き込みました。

 万年筆を愛するあなたなら、きっとこの物語の「手触り」を感じていただけるはずです。

 画面を閉じる前に、ぜひ一度、私の本の世界を覗いてみてください。

自作原稿抜粋
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コメント

  1. 山雨 乃兎 より:

    >xml_xslさん
    ナイスを有り難うございます。

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