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『第一回、東京家出の記』ーーー7

 銀行は三日連続で休みなのであった。

 月曜日が祝日だったから。

 眠っていない土曜日を過ごし、夜中じゅう歩いた後の日曜日。その夕方には、流石に俺は観念した。

 ともかく休みたい、一旦眠りたい、そう思った。

 警察に教えてもらったけど、質屋の場所が判らない。

 放浪している俺の目の前に、骨董屋が見えた。

 骨董屋でも、質屋と同じように後で利息を払えば、品を返してもらえるかもしれない、そう思って、思い切って、骨董屋の主人に相談を持ちかけた。

 俺の所持していた物で、値段のつく物と言えばトランペットぐらいしかない。

 はじめに、オリエントのツインクォーツの腕時計やフォルクスワーゲン社の腕時計を見せて交渉してみたが、駄目だった。

「それは何?」

 と、店長は目ざとく、俺のトランペットのケースを指さした。

「ああ、これは……」

 バック(一流メーカー)のトランペットである。

「一旦、預かってもらえないでしょうか。引き取りにくるとき、利息はお払いしますよ」

「ウチはねえ、質屋じゃないの。骨董屋だからね。それは出来ないねぇ」

「ちなみに買い取りとして、お幾らだったら買ってもらえますか」

「いくらしたの? このトランペット」

「定価22万円です。少しは値引きで買ったけど、実際に22万の価値はあります。買って間もありませんし」

「そうだね。……一万だったら即金で買うよ。」

「ええ~。定価22万の新品なんですよ?」

「だって、お宅困ってるんでしょ。今日泊まるお金もなくて。ウチは商売だから、また値段つけて売らなきゃならないのよ。だから、1万だったら買うけど、どうする?」

 俺は、仕方ないと思った。

 さだまさしさんの自伝を読んで、彼もバイオリンを売るとき、身を切るような思いになったことを思い浮かべた。しかし、自分の場合は、身勝手な家出という原因によって売ることになったのだが…。

 商談は成立した。

「それとね、このトランペットが、どこのメーカーの製品か、ここにメモっておいてくれないか」

 店主の声は冷たく感じた。

「君ねぇ。また、トランペットが欲しくなったら、こういうウチみたいな店(骨董屋)で買ったらいいよ。物は物なんだから、どこで買っても同じだよ」

 書き忘れたが、この前の喫茶店で知り合った音楽仲間の助言があって、僕は、二、三日まえに家に電話を入れていた。

「お前、家出してきたって、とりあえず家族にだけは連絡しておけよ。捜索願いなんか出されたら面倒だからな」

 と、彼らは言った。

 僕は、骨董屋からの金を握りしめて、ビジネスホテルにチェックインした。

 3時頃からチェックインできるホテルに泊まって、ビールで神経を休めて、寛いだ後、薬を普段の倍飲んでぐっすり眠った。

 ホテルの狭い部屋で見た、タイムボカンシリーズは、その色合いも手伝って、僕に侘びしさを増長させた。

 ああ、僕は、これから、何とかなるのだろうか?……

【例によって、主語が、僕と俺の混用になっていますが、ご容赦ください】

*次話は、こちら→  『第一回、東京家出の記』8

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