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第一回、東京家出の記ーーー15

 池袋の駅に、何度か行った。

 ある時、駅前で、早口で話しかけてくるキャッチセールスに遭った。

 僕は、Bくんとの待ち合わせには時間があるし、話しを聞いてやるくらいいいだろうと思って、立ち止まって相手の話しを聞いた。

「お兄さんネ、ウチは××カンパニーというエンターテイメント・サービス会社。

お兄さん、これね、映画のチケット。

 チケットってったって、そこらに売ってる物じゃないよ。

 何と、劇場映画が格安で見られるってものなの。

 これ、十五枚つづりで、三千円。

 普通、お兄さん、映画見るとき、いくら払う?

 1800円か学割でも1200円だよね。(この辺の物価は、当時を正確に記憶していないので、間違ってたらご容赦を)

 これは、十五回も映画が見れて、しかも三千円のつづりなのよ。

 お兄さん、これね、このキャンペーンやってるから、ここでしか買えないのよ。

 しかも、ウチのサービスにノミネートされてる映画だったら何種類でも見れるのよ。

 さあ、買う?」

「じゃあ、一枚」

 おれは、わざと、話の種に騙されてやろうと思った。

 三千円なら、捨てても痛くはない。

「お兄さん、一枚ってことはないでしょ?

 友達とか居るでしょ」

「友達はいない。田舎から出てきたばかりだから」

 おれも、そこは譲らない。

「はい、じゃ、これ、ワンセット。ここに、見られる映画の案内番号が書いてあるから、電話してみてね」

 後日、その案内電話番号にかけると、

「こちらは、××カンパニーです。優待サービスでご覧になれる映画は、現在はありません。次

回に、ご案内させて頂きます。次回の案内は○月×日16時からとなっております」

 やっぱり、詐欺か、と思った。

 次回の案内日になって、再び同じ番号に電話すると、

「こちらは、××カンパニーです。現在は、優待鑑賞の対象映画はありません。優待鑑賞の映画

と映画館のご案内は、○月×日、午前10から、ご案内させて頂きます」

(完全な詐欺。阿呆らし。それでも三千円で済ましたところは、おれも賢い)

 などと思った。

*次話は、こちら→  『第一回、東京家出の記』16

*トップは、こちら→  『第一回、東京家出の記』1

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