池袋の駅に、何度か行った。
ある時、駅前で、早口で話しかけてくるキャッチセールスに遭った。
僕は、Bくんとの待ち合わせには時間があるし、話しを聞いてやるくらいいいだろうと思って、立ち止まって相手の話しを聞いた。
「お兄さんネ、ウチは××カンパニーというエンターテイメント・サービス会社。
お兄さん、これね、映画のチケット。
チケットってったって、そこらに売ってる物じゃないよ。
何と、劇場映画が格安で見られるってものなの。
これ、十五枚つづりで、三千円。
普通、お兄さん、映画見るとき、いくら払う?
1800円か学割でも1200円だよね。(この辺の物価は、当時を正確に記憶していないので、間違ってたらご容赦を)
これは、十五回も映画が見れて、しかも三千円のつづりなのよ。
お兄さん、これね、このキャンペーンやってるから、ここでしか買えないのよ。
しかも、ウチのサービスにノミネートされてる映画だったら何種類でも見れるのよ。
さあ、買う?」
「じゃあ、一枚」
おれは、わざと、話の種に騙されてやろうと思った。
三千円なら、捨てても痛くはない。
「お兄さん、一枚ってことはないでしょ?
友達とか居るでしょ」
「友達はいない。田舎から出てきたばかりだから」
おれも、そこは譲らない。
「はい、じゃ、これ、ワンセット。ここに、見られる映画の案内番号が書いてあるから、電話してみてね」
後日、その案内電話番号にかけると、
「こちらは、××カンパニーです。優待サービスでご覧になれる映画は、現在はありません。次
回に、ご案内させて頂きます。次回の案内は○月×日16時からとなっております」
やっぱり、詐欺か、と思った。
次回の案内日になって、再び同じ番号に電話すると、
「こちらは、××カンパニーです。現在は、優待鑑賞の対象映画はありません。優待鑑賞の映画
と映画館のご案内は、○月×日、午前10から、ご案内させて頂きます」
(完全な詐欺。阿呆らし。それでも三千円で済ましたところは、おれも賢い)
などと思った。
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