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『バイク』(ショート・ショート)

   『バイク』

 僕はやっと賞が獲れたので、賞金の一部で中古の単車を買った。

 中型免許しか持っていないが僕は身長が高い。

 だから、車体の大きいオフロードタイプの250にした。

 店の人が家に持ってきてくれて、弟も帰っていたので外でビールを飲みながら二人で眺めまわした。

 弟は僕よりバイクに詳しい。

「折角、ここまで持ってきてくれたったけど、この道、恐いな」

 僕は言った。

 我が家のまえの駐車スペースは、中型ぐらいまでがぎりぎり停められる幅だ。しかも、そこから国道へ出るには、細い土の道を通って、さらに急な坂を降りなければならない。

 細い道の片方は急な断崖でフェンスがあって安全なのだが、もう一方は剥き出しの下水道

で、幅二メートル高さ一メートル六、七〇センチはある上に、底の方に厚さ一センチほどの水が

流れているだけだ。

 オマケにバイクのフットレストの位置が高い。

「兄ちゃん、それやったら、エンジンかけんとこの道、左に倒れ気

味に押していきんか、それからブレーキかけて、坂降りたらええ」

「そうやな」

 

 僕は嬉しくてしょうがなくて、今すぐ乗りたかったが、酒がはいっていたので、部屋に戻って眠った。

  何と、五時に目が開いてしまった。

 いそいそと着替えてヘルメットをかぶって単車を押した。

 この単車は車体が軽いのがいい。

 坂の頂上に来るとまたがって滑らせた。

 

 右のレバーを握ってみた。

(ええ!? ブレーキが!)

「兄ちゃん! エンジンかけな! エンジンかけな!」

 

(そうか、油圧ブレーキでエンジンがかかってないと効かない訳か………えっ!? セルボタンが

ない!!)

「キック! キック!」

 弟が玄関先で叫んでいる。

 

(キックつったって、ペダルをさぐっとる時間なんか、もうないわ……)

 バイクは加速してゆく。

 

 国道に車が来ない事を祈るばかりだ。

 対岸は会計事務所のモルタルの壁だ。

 

(そうか! ギアを入れたら)

 

(………クラッチがない!! 畜生!! ノンクラッチか!?)

 

「おおーーー!!」

                     (了)

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 私はこのブログで万年筆の魅力を綴ってきましたが、実は長年、その万年筆を相棒に物語を紡いできた小説家でもあります。

 インクが紙に染み込むように、人の心の奥底にある「光と影」をすくい上げたい——。そんな想いで書き上げたのが、私の代表作『閉鎖病棟』です。

 閉ざされた場所で交錯する、剥き出しの人間模様。 作家として「本当に面白い、価値のあるものを届けたい」という一心で、一文字ずつ丁寧に命を吹き込みました。

 万年筆を愛するあなたなら、きっとこの物語の「手触り」を感じていただけるはずです。

 画面を閉じる前に、ぜひ一度、私の本の世界を覗いてみてください。

自作原稿抜粋
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