岩井志麻子さんの、『ぼっけえ、きょうてえ』を読みました。
感想は、例によって追記で書きます。
追記・感想
まず、表題作『ぼっけえ、きょうてえ』。
ぼっけえ、きょうてえ、とは、岡山地方の方言で、凄く怖い、という意味。
或る男が競艇に嵌って、借金まみれになって一家離散するホラーではありません。(要らんことを枕にするなって? 仰有るとおりです。(自嘲))
遊郭の一室で女郎が客に聞かせる身の上話。
岡山から出てきた女郎。
岡山でも北部で、貧しい農家なので、母が産婆をやって育ててくれたという。
その産婆というのも、間引き専門の仕事で、よって自身も業が深いと話す。
貧しい時代の生活。さらに、最低限の教育も受けられなかった身の上。そういう時代が描かれている。(蒸気機関車のレール敷かれる少し前の時代)
それに自身も、一旦は間引かれかけたのだが、生命力の強さから生き残った、と。
それにしても、話しを聞いている方の客は余程寝付きが悪いらしい。だから、女の身の上話も長くなる。
女郎には双子の姉が居て…。
寝付きの悪い客が女郎の秘密を見てしまうのだが……。
文体が凝っている。すぐにはすらすらとは読めない文体だが、それだけに重い。
また、明治後期の時代背景を正確に書いていることから、著者は年齢的にも若いし(僕と同年代だし)、祖母、祖父から聞いていた話を活かしたとしても、それだけでは書けないと思う。やはり、さらに取材や勉強をされたのだと思う。
女郎(妾(わたし、と読ませるが))が、語りという形で進めていく文体だから余計に怖い。母の因果な仕事により業がまわってきてそんなことになったのだな、と思わせる説得力もある。
次に、『密告箱』。
コレラが流行して、匿名で「どこそこの誰それの姿をあまり見ないが、ひょっとしてコレラにかかって家で寝込んでいるのではないか(それを家族が隠匿しているのではないか)」と投書させる為に出来た『密告箱』。
村のその為の専門の病院は、患者を治療する気がなく、ただ隔離されて弱らされてしまう。だから、あの病院に行ったら死ぬから、家族が感染したことを隠そう、という誤認識による風潮ができてしまったということ。
あいつが密告したから、ウチの人は病院に連れていかれたということになるので、匿名で箱に投書しようという案が出て、それを開けて、名前のあった人の健康状態を確認に行く仕事を任せられるのが主人公。
ところが、投書に多い名前のなかに、自称祈祷師の女が居て、主人公はその女に恋して…。
やはり、男(主人公も含めて)は色欲に迷うもの。
男の妻の鋭いかんぐりと、表面には出さない嫉妬から、最後は決定的な結末に。
やっぱり著者の岩井さんにも、このような動機があるのかも知れない。色恋のどろどろしたものを経験してないと、こんな風には書けないなぁ、と思った。
『あまぞわい』『依って件の如し』は、怪奇現象は特にはないホラーだ。
貧しい村での生活。家庭内では、酷い疎外や暴力があったということが長々と語られ、そういう様々な経緯から読者の心理に与える恐怖を浮かびあがらせている。
いずれの作品も、時代考証が大変だった筈で、これは簡単には書けないなぁ、と思った。岩井志麻子氏はタレント性もあるが、やはり、作品は重い内容の秀作を出されている。
コメント
>takagakiさん
ナイスを有り難うございます。(^。^)