『図書館であそぼうーーー知的発見のすすめ』読了(追記あり)

 辻 由美さんの、『図書館であそぼうーーー知的発見のすすめ』を読みました。


図書館であそぼう―知的発見のすすめ (講談社現代新書 (1453))

図書館であそぼう―知的発見のすすめ (講談社現代新書 (1453))

  • 作者: 辻 由美
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/05/31
  • メディア: 新書

 感想は、追記をお待ちください。

 

   追記・感想

 

 最近ちょっと思っていることですが、今は公共の図書館って、小説(特に読み物系)の新作を

借りにくる為の場所になってきていますよね。本来の図書館の役割とはレファレンスで求められ

た情報を提供する、或いは自分で行って調べ物について深く調べる為のものだと個人的には思う

のですが……。話題作・新作の貸し出し所みたいになっています。ホントはそういう本は書店で

買うべきだと思うのですが、まあ、自身も含めて只で借りられるというのが助かっていますが。

この本の著者、辻さんは、上記どちらの意味に於いても公共の図書館の存在意義があると仰有っ

ています。

 

 またしても、今回もネタバレ的な書き方になります。

 ご自身のお住まいの近くで咲いていたオレンジ色の花弁の小さな花の種を採取して自宅で育て

られる著者。どうみても、日本に古来からある種の花ではないと思われた著者は、その花の名前

を図書館で調べられます。花の名はチトニアだと分かったのですが、その後なかなかその名の語

源には行き着きません。その後、仕事でパリ植物園を取材されたとき、自然誌図書館で好意的な

レファレンスの方の協力も得て、ようやくチトニアの語源と名付けたのが誰かに行き当たる。導

入はそんな話しです。

 

 翻訳家で作家でもあられる辻さん、ご自身が執筆の為に調べ物をされるとき公共図書館をよく

利用される。その有効な使い方について体験に基づいて論を展開されます。

 フランス語で書かれた『中国女性の歴史』という本を日本語に翻訳されるといった体験も興味

深い。

 中国語の発音を示す記号にピンイン(コンピュータでは出せない漢字でした)と四声(シセイ)

があり、アルファベットの国では中国語のピンインを表記している。この発音を基に、名前など

の場合漢字を探っていくのだが、そのときに人名辞典だけでない膨大な書物との格闘があるそう

です。

 

 蔵書検索は、国によっても、図書館によっても使い易さが違うことも述べられていました。国

会図書館の蔵書目録が一番、検索しづらいようです。検索ワードの打ち込み方にコツがあり、ど

うしたら、その本の場合のコツに行き着くことが出来るかの術も紹介されていました。

 

 フランスにお仕事で行かれることが多く、フランスの図書館事情についてはかなり詳しく書か

れています。

 

 ご自身が突然、飛蚊症(目の病気)に罹られたことから、普段とは違う仕事以外での、病気の

詳細についての調べ物に近隣の図書館に出掛けられた。その話から、レファレンスに求められる

もの、レファレンスがどこまでのサービスをして、反対にどんな事には対応できないか等といっ

た論に展開していきます。

 

 地域の公立図書館には図書館ネットワークと広域協定があるそうです。詳しくは本編をお読み

ください。

 

 日本の場合、近くに一軒は公立図書館がある、という現状にはなっていないそうです。

 図書館は、どんな事でも調べられる所。近隣の図書館はその入口な訳です。そこからネットワ

ークを使って必要な本を取り寄せてもらうことも出来る訳ですから。そういった論旨で現状を嘆いてお

られました。

 日本全体で複数の図書館をもっているのは、図書館が設置されている市区町村の14.6パー

セント(この本自体が1999年の版ですから、その直近の数字です)。それだけでなく、図書

館をもつ自治体そのものが市区町村全体の5割に満たない。市区の場合は96パーセントが図書

館をもっているが、町だと図書館があるのは40パーセント。村になると14パーセント。【一

部本編引用】という1999年時点の現実。今で言うと、その後市町村合併などが有った訳です

が、合併で土地面積は広くなって、自治体ごとの図書館の軒数は増えたとしても、結局身近に図

書館がないという現実が変わっていない地域の人はおられる、という事になります。

 

 図書館の職員にレファレンス能力に長けた人が少ない。とか、愛想が悪い人に出くわす。とか

もよく有る話しですが、日本の図書館員は、司書の資格を要件に採用されることは一般的でない。

さらに役所の人事異動で図書館の職員は3年5年なりで職場をかわらなければならない。【一部

本編引用】という現実がある。この現状のおかげで、ネットワーク化や広域利用を進めるにも職

員の経験が蓄積していかない、という問題があるようです。

 

 話しが脱線しますが、著者が日本図書館協会に行くのに、三度も道に迷われたというエピソー

ドも書いてありました。日本の番地はきちんと並んでいない事が多いので同情します。

 

 まとめとしては、社会人が仕事の合間に、仕事で必要な情報を得る為に図書館に行くのもあり

だし、待ちあわせの場所として図書館を利用するのもありだと首肯しました。

 レファレンスでは病気を治したり犯人を捕まえたりといった事は出来ませんが、各自が知りた

い情報を得ることが出来る。かといって、代わりに読んで分かるように教えてください、という

のもレファレンスの仕事ではない。あくまでも必要な情報に辿りつけるように本を紹介すること

だそうです。

 誰でもが利用できて、色んな使い方が出来る公立図書館。

 エジプトが起源とも書かれていたと思うが(ちょっと忘れましたので、正確な情報ではないで

すが)、これは偉大な発明ですね。多くの本を多くの人で共有するからこそ、知識・情報が誰に

でも行き渡るということなのだと思います。コストがかかっても、多くの人でそのコストをまか

ない、且つ多くの人がその恩恵にあずかることが出来る。何とも理想的なシステムではないでし

ょうか。図書館は。

 それでは、また。

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