『夫源病(こんなアタシに誰がした)』読了(追記あり)

石蔵文信(いしくら ふみのぶ)さんの、『夫源病(こんなアタシに誰がした)』を読みました。


夫源病: こんなアタシに誰がした 阪大リーブル

夫源病: こんなアタシに誰がした 阪大リーブル

  • 作者: 石蔵文信
  • 出版社/メーカー: 大阪大学出版会
  • 発売日: 2019/05/10
  • メディア: Kindle版
 
 

例によって、感想は追記をお待ちください。

追記・感想

 夫の定年後、妻にストレスが溜まる理由

夫が定年退職し、ずっと家に居るようになってから、妻のストレスが溜まる場合が多い。

その頃は、本来、妻の更年期も終わっている時期なのだが、更年期の症状なのかと思い、医者がよいをつづける、といったことになる。夫が現役の時期から妻のストレスが溜まることもある。その場合は、丁度、妻は更年期の時期だから、更年期を疑ってしまう。

だが、得てして、妻の具合が悪くなっている原因は、夫にあるのだ、ということを教えてくれる本だった。

夫は、定年間際までは、会社では管理職の立場にまで上り詰め、大抵の仕事のお膳立ては部下にしてもらうのが当たり前となっていた。

たとえば、十段階、ひとつのことをするのに行程があるとすると、管理職や重役の人は、下層の4段階ぐらいまでを、すべて部下に先にやってもらっている。その後の頭を使う部分だけをするのが仕事となっている。

そんな具合のまま定年を迎えた夫は、趣味もなく仕事以外の友人も居ない場合、一日中家に居て、妻に何でも命令する、といった行動をとる。

妻のほうは、今までは、夫を会社に送り出してからは、のんびり韓流のDVDを見たりして、昼食も炊事はせず残り物で済ませ、昼食後は主婦仲間とカラオケやランチやウインドーショッピングに行っていた。それが生き甲斐にもなっていたわけである。

ところが、定年を迎えた夫は、一日中、家に居るのである。

友人が多く、趣味も多いといった夫の場合は、愛想がよく、一緒に居て妻のほうが疲れるということはないが、仕事一筋で無趣味、しかも家事は今まですべて妻任せであった夫の場合は、愛想もわるく、妻が息が詰まるのである。

高校生じゃないが、「飯、金、風呂、寝る」だけを言ってくる。   

いや、簡単なことの要求だけでなく、何かにつけ妻に関わってくる、という接し方になる。

妻は、普段は、昼食などつくらなくてよかったのだが、昼になると、「今日の昼飯は何だ?」と、ずっと夫が訊いてくる。

 妻の自由を許さない夫

それどころか、妻の行動を管理・制限する夫まで居る。

こういった状況がつづくことによって、妻が精神的病になる、ということだった。

ただ、夫のほうも精神的病になるのである。

定年退職しても、羽根が伸ばせて楽しいと感じるのは2、3年までで、その後は、退屈で仕方なくなってくる。元の職場にも、そうそう顔を出すわけにもいかない。

妻に、もっと自由な時間を与えよ。

せめて夫も、昼食ぐらいは自分で作れ、ということを推奨されている。

仕事ができるなら、仕事をし、せめて趣味を持て、と。

著者は、男性更年期外来を開設していらっしゃる。

だが、多くの相談に来る患者の場合、夫だけでなく、妻も体調が悪くなっている場合が多い。夫婦両方での診察を薦められる。

更年期障害だと思って診察を受けられるのだが、多くの場合、夫または妻のことでストレスが溜まっていて、それが症状に結びついている場合が多い。

 壮年期の夫婦の、本来あるべき生活スタイル

夫が壮年期で現役の夫婦の場合、母親である妻には、子供たちの巣立ちが母親には堪えるようである。とくに子が息子の場合、女の子と違って友達感覚になることもなく、一挙に独立する。彼女ができた場合は、息子をとられたような気分になる。子育てが終わってホッとした感情と喪失感で生きがいが消失する。家事で気を紛らわせればよいのだが、最近の電化製品の発達で、家事はすぐに済んでしまう。元々仕事に才能があって子育てなどで仕方なく家庭に入った妻、の方が、ぐうたらで三食昼寝付きの主婦業を満喫している妻よりもダメージが大きい。

著者はこういった状況になれば、妻をパートなりでも働きに出させることを推奨している。夫が高学歴でまずまずの収入がある場合、夫が「男の面子」で、なかなかそれを承知してくれない。ある意味、家計が火の車のほうが夫も妻のパートなどを納得しやすいし、負い目があって家事を手伝うようになるのでうまくいく場合がある。【一部本文引用】

 「ワシも族」と「お前も族」

「ワシも族」という言葉がある。これは著者が作った言葉かどうか分からないのだが、要するにこうである。「定年後に妻に付きまとう夫」のこと。今まで頑張ってきた仕事を辞めて肩の荷が下りるとき。思う存分ゴルフを平日にできる、と思っていたのだが、平日ではなかなかメンバーが集まらない。仕事関係で声をかけても会社の看板が外れた人間には冷たい。新しく趣味を始めても、あまりのめり込めない。妻と何度か、国内・海外旅行をするが、帰ってくると妻は、「これからは、一人で行ってください」などと言う。やることもなく一日中家にいると妻が頻繁に外出することに気づく。そこで、「ワシも連れてけ」となるのである。デパートやスーパーマーケットに。だから老夫婦で買い物に来ている夫婦の多くは一見微笑ましく見えるのだが、よく注視してみると、あまり会話をしていないし、奥さんの方が邪魔くさそうなのだそうである。【一部本文引用】

「お前も族」というのもあるそうで、自分の外出にいちいち妻を付き添わせる夫だそうだ。

「ワシも族」も「お前も族」も、お互いが納得しているなら、むしろ夫婦仲がよくて好ましいことだが……。

定年後の夫がいつも妻に付きまとい、部下のようにこき使うものだから、妻にはかなりのストレスで、それが原因で体調が悪くなる。更年期をすぎた女性が六〇歳前後に発病する更年期障害の原因となる。別名「主人在宅ストレス症候群」。【一部本文引用】

 男性の「定年うつ病」の改善策

男性の方の定年後に発症する「定年うつ病」の原因は、「ストレスがないストレス」「生きがいを喪失したストレス」。

ともかく、ちょっとした料理は自分で作るようにすることが大事。そうすると妻の負担も減る。自分で作ることによって、健康のための料理ではなく、自分の納得のいく味の料理を食べることになるので、男性も料理好きになっていく。

料理は、片付けと併行して行わなければ、よくない。後で片付けようと思っても、満腹になるとどうでもよくなる。極力後片付けが少なくて済むように、片付けながらしよう。

この意見は、同感する。

私も料理を始めた頃は、台所を散らかし放題にしていたので、親に受けがよくなかった。

調理の、たとえば水から加熱している時間でも、素材の包装紙を捨てる、とか、まな板を洗う、などは出来る。これを、やるかやらないかの違いは大きい。

夫源病の原因は、仕事中心で家庭を顧みなかった夫にあるが、家事をしっかり取り仕切って、夫を家事から遠ざけていた「専業主婦」にも責任の一端はある、と著者はする。

家事を完璧にこなして、料理に醤油を足すぐらいで激怒する、モンスター・ワイフという存在もある。詳述は本編に譲るが、キャリア系の出来る女性が出産を機に専業主婦になった場合、主婦業にも自身で完璧さを追究してしまうのだ。これでは、夫の息が詰まる。

自分のやったことは完璧と自負しているので、夫のだらしないところや、自分の料理の味付けを変えようとする夫が許せなくなるのだ。こういう妻は、上手くおだてていこう、という意味のことが書かれていた。

・「完全主義」の新型うつ病、の項では、うつ病の治療には、気分転換も必要などと医師などに言われたからといって、病状が重いときに、無理して海外旅行に行ったり、英会話教室に通い始めたりする、そういうタイプの人の病名(正式には、こんな病名はないので通称名)である。

うつ病は、脳内のセロトニンやノルアドレナリンが減るから起きる。治療にはセロトニンをあまり使うのは好ましくない。(この書き方で最初は誤解していたが、脳内のセロトニンを減らす(使う)ことを、極力避けること、という意味だと分かった)

色々と不安なことを考えて頭を使うことが、一番セロトニンを速く減らす。だから、自分の好きなことだけをして、庭作業や荷物運び、などの単純労働だけをしている方が、頭の休養になる。家で、ごろごろしていても仕事のことを考えてしまうことが多いからだ。

焦燥感こそが、無駄にセロトニンを使い、回復を遅らせることになる。いくら気晴らしをしても改善しないからと、さらに過激な気晴らしに走る人がいる、ということだ。うつ病が重篤なときに海外旅行では、精神にも負担が大きいだろう。

セロトニンが減ってくると「寛容性」が少なくなると言われている。そうなると、悪い自分の現況や、他人のささいなミスに対して、他者を責める人と、自分を責める人という

異なった反応を人は示す。「他罰性」「自罰性」。ゆとり教育以後は、「他罰性」である。

自律神経失調症、不安障害、について、原因、症状、改善策などが書かれている。内容は本編に譲る。

 ストレスを軽くする自律訓練法

ストレスを軽くする自律訓練法が紹介されている。

実は、私も或る病院で指導を受けたことがある。全身を順に脱力させて、その状態を常態とし、出来るだけ副交感神経が優位の状態を長く保持する、緊張型の精神疾患に有効な方法だ。これも、是非、本編を読んで習得していただきたい。

健康的な潔癖な生活サイクルというのが、必ずしも本人に良いわけではない。夫が自分の生活サイクルに妻を合わせようとして、それが元で妻が不眠に陥っているケースも挙げられていた。

 夫が原因の妻の更年期、精神病への意外な解決策

さて、夫が原因で、妻が第二の更年期障害または精神病になってしまった場合の回復への策として、「プチ入院」や「プチ別居」を著者は薦められていた。

ストレスの原因が夫なら、いっそのこと夫に早く死んでもらおう、という趣旨でつくられた、「夫を早死にさせる一〇ヶ条」【ハーバード大学、メイヤー教授提唱】も、半ば冗談として紹介されていた。興味のある方は、是非、本編を。

最終の項は、「妻に殺されないようにするには」という、何ともショッキングなタイトルだったが、夫源病が元で、実際に犯罪も起きているのだから、定年を迎える男性は読んでおくことをお勧めする。

「あとがき」では、男性更年期外来に訪れた夫婦が、健康を回復していく様子が、フィクションのストーリーとして展開される。最後の最後に出てきた夫婦仲改善のファクターは、セックスだった。私が思うに、男性の攻撃性をDVなどという形でなく上手く収めてくれるのがセックスではないだろうか。そして、お互いに幸福感を得るのだから。

 感想・まとめ

些か、本編の紹介だけにシェアを取りすぎたとも言えるが、これで書評とする。

人間、五十年と、昔は言われていたが、現在では平均寿命が格段に延びている。

著者も本編のなかで言われているが、六十もお互いに過ぎた夫婦が、恋愛熱が冷めたなどと言うのもおかしな話である。もう、その年齢になると、夫婦関係は「惰性」である。

それならば、お互いに、家での居心地がよいように、相手がストレスを感じていないかを意識してみたらよいと思う。定年後も出来るだけ仕事や趣味を持ち、定年前に自分が家に居なかった時間を、妻に何でも命令して過ごすというようなことは避け、ちょっとした料理などは作るのが望ましい。

することがない、と言っても、することはありますよ。

やはり、また自説の、「ライフワークが大事」という結論に行き着いた。

*石蔵文信氏の他の本の感想→  『57歳からの意識革命』読了

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