桐野夏生さんの、『東京島』を読みました。
感想は、追記をお待ちください。
追記・感想
実話を基に書かれたフィクションらしい。
とはいっても、実話をそのままストーリーに当てはめたものではないようだった。
大幅にネタバレを含みますので、ご容赦ください。
主人とのクルージングで外洋に出た清子は、主人とともに遭難し、太平洋上の無人島に漂着す
る。
淋しい生活に、同じように遭難した日本人グループ(オタクたち)と、さらに遭難してきた中
国人グループが、島で共同生活をすることになる。
清子の主人は食中毒になり、少々ながい闘病の果てに、岬から転落死してしまう。この死につ
いては、謎が多い。
当然そうなると(そうなる前からも)、清子はオタクたちと情交を交わすようになり、二年と
いう期限つきの結婚を何度か繰りかえすのだが、オタクたちにも中国人たちにも或る時点から心
境の変化があり、清子は島で唯一の女性というもてはやされた立場からは転落していく。
島で子を産んだ清子は……。そして、意外な結末へ。
感想としては、「分量がともかく長い」ということを感じた。
長ければ長いで、それはそれで良いのだが、段落が肥えすぎている。すなわち改行が少ない。
読むのがしんどい。G・ガルシア=マルケスを読んでいるしんどさに似ている。
無人島での生活は画が浮かぶほどリアルだった。しかし、実際の無人島での生活というのは、
もっと命の危機感で切迫しているのではないだろうか。小説として書くとしても、その部分をも
っと拡大して訴えなければリアル感が不足するようにも思う。たとえば毒蛇がいることだけでも、
絶えずその存在を意識し、逃げるのにも命からがらだと思う。こんなことを言っても、私自身が
無人島での生活の体験があるわけではないから、著者と同じ立ち位置なのだが。でも、思っても
いない男に犯されるなどということよりも、毎日、命の危機と直面しているということの方が、
おそらく無人島では思考のなかに常につきまとう大問題だと思う。
それから、着るものの問題だが、こんなに長期に亘って無人島で生活していくとなると、服や
下着など、本編のように長く保つのだろうか。
洗濯ができないので、「汗と砂と土が染み込んでいる」という描写はあるが、その程度の問題
で済むだろうか。推測するしかないが、破れてくるはずである。しかもかなり短い期間で。
本編が長いだけに、清子の心情の変化なども詳細に感じることが出来た。
最近思うことだが、女性の性欲というのも、根本的には男性と変わらない。また、異性からモ
テていたいと思う意識も、男性でも女性でも同量ほどにある。
この物語り、単なるサバイバル小説というだけでなく、隠されたテーマを内包しているように
思う。すなわち、男女双方の晩婚化、という問題だ。無人島での今回のストーリーを描くことに
よって、結婚できない女性。しかし自分からは声をかけられないが故に歳をとっていく。結婚で
きない男性。女性がプライドを持って意志的で強くなったので腰がひけてアプローチそのものを
諦めてしまう。自身に自信がないことにも因る。そういう男女の姿。こういうものを暗に示して
いるようにも読めた。
さらには、島を相似形に日本と置き換えて見る見方で、少子化の世界、という現代の問題も暗
に浮き彫りにしている。