車谷長吉(くるまたに・ちょうきつ)さんの、『世界一周恐怖航海記』を読みました。
感想
私は、文学界に掲載の分でこの航海記を読みましたが、ストーリーとも呼べる航海の日々の出来事とその日の食事などの記載と併せて、車谷さんの心の内面、及び、今までの体験の告白などが紡ぎだされ、これぞエッセイという感じがしました。
人間、生活しているときに、ただその目の前のことをこなしているだけではなく、やはり、心のなかで様々なことを考えたり回想していたりします。
特に、このエッセイで注目すべきは、人間の性(さが)が浮き彫りにされていることです。女の人であっても性の対象或いは、伴侶としての人が居ないと淋しいものである、というような内容が鋭い観察眼で書かれています。
車谷さんは、直木賞作家にまでなったのだから、充分世界旅行など謳歌すればいいと、思ったりするのですが、ご自分は、アウトローな存在ということを強烈に意識されていて、享楽からはご自分を遠ざけられる姿勢などに胸の詰まる思いがします。
仏教的な人間認識が、車谷さんの中に底流としてあるようで、自分に厳しい硬派な生き方を感じます。
船でどんどん西へと地球を回っていく、その土地土地での人間の印象など、日本人が忘れてしまった公衆道徳意識のある国の人達も描かれていて、襟を正されるような、また、日本はなんて個人主義風潮になってしまったんだとか思いました。
旅行のリアリティーも充分伝わるので、楽しい本です。
・車谷長吉さんの他の著作の感想→ 『人生の四苦八苦』 『妖談』
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