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『共喰い』読了(追記あり)

 田中慎弥さんの、『共喰い』を読みました。


共喰い (集英社文庫)

共喰い (集英社文庫)

  • 作者: 田中慎弥
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2013/03/13
  • メディア: Kindle版

 例によって、感想は追記をお待ちください。

 

   追記・感想

 

 今回、この単行本収録中の2作の短編のうち、『共喰い』だけを読んだ。

 ニコニコ動画の授賞式中継のまえの作品解説で言われていたことそのままを感じた。

 この作品は、完全に中上健次の真似である。もっときつく言えば、踏襲である。文体に、

とくにそれを感じる。テーマで言えば、「血」と「土地」と「セックス」と「暴力」である。

【加筆】文体に中上健次氏の文体の踏襲を感じると書いたが、これは、絶賛されるべき

偉業である。他人のプロの文体を、完全に真似ることは、非常に難しい。それをやって

のけているのだから、田中慎弥氏は、リスペクトされるべき技量を持った作家である。

この点では、誰も批判できない。

 血とは、暴力的な父母や先祖が居たから、自分も必然的にこうなった、という諦め。

淫らな肉親間での性交を行った先人が自分の先祖または、父母に居たことからの自身

をコントロールできなくても仕方ないのだ、という諦め。

 土地とは、荒くれ者が多く住む土地で、その気風の影響を受けて、自分だけが

綺麗な品行方正ではいられない、という捉え方。

 セックスとは、セックス描写そのものである。これは著者に体験がなければ描けない。

 暴力とは、今作の場合、性交中の暴力であるが、中上健次の場合は、親族やライバル

との競争のなかで起こる暴力も描いている。

 良さは確かにある。それがいけないと言っているのではない。

 しかし、父のバックボーンをもっと語ってほしかった。

 現在進行形の出来事のインパクトよりも、実父の生き様、そして、その生き様をしなけ

ればならない事情というものが、まるで語られていない。

 猿に、自分の恋人をやられてしまった、というようなえげつなさしか残らない。

 また、或る程度作者の実体験に基づいているストーリーテリングならば、よく、こんな

きわどいことを説明でなくて描写できるものだ、と作者の神経を疑う。主人公「遠馬」が、

あんな行動に出てしまうというのも、その動機が一切語られていない点が不充分である。

どうせ、父の子供であるのだし、という、自分に自棄を起こしたということだけでは、人

間は、ああいう行動を起こさない。また、きわどい現実も、説明として書かず、描写だけ

で書ききることによって、読者の憶測を避けることは出来やすいのも確かだ。

 今作中の方言も、たしか作者は下関出身だったから、中上健次の四国の方言と似通った

ような俗物的響きがあり、それは功を奏している。

 折角、ここまで書くなら、家系の昔からの歴史に深みを持たせるとか、実父の現在の人

間性が出来上がった経緯について詳細に作り込んで説明するとかが欲しい。

 インパクトは強いが不充分だと思った。

 また、作中の登場人物の誰に感情移入していても、まったく誰もが救われない、という

強烈な悲惨な終わり方にする必然性は何なのか。そこを考えてしまう。

 現実味(リアル感)を感じない、と酷評した石原慎太郎の気持ちもわかる。

 実父が仕事をしていないことについて、それが何故なのか、まったく語られていない。

 主人公「遠馬」の人物造形についても不完全すぎる。「遠馬」が、普段の潜行する意識

のなかで、何をどう考えているのかがはっきりしない。読者のなかには、充分な描写

があったと捉える人も居るだろうが、語られているのは、恋愛の対象に対する心の動きで

しかない。

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コメント

  1. 山雨 乃兎 より:

    >ビター・スイートさん
    ナイスを有り難うございます。(^。^)

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