『大不況には本を読む』読了(追記あり)

 橋本治さんの、『大不況には本を読む』を読みました。


大不況には本を読む (河出文庫)

大不況には本を読む (河出文庫)

  • 作者: 橋本 治
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2015/06/08
  • メディア: 文庫

 例によって、感想は追記をお待ちください。

 

   追記・感想

 

 「大不況には本を読む」というタイトルでありながら、本編四分の三まではタイトルで

表された内容は出てきません。

 世界の経済がどのように変化してきたか。日本の経済がどのように変化してきたか。を

滔々と語られます。

 

 世界の経済に、一番大きな変化をもたらしたのは、産業革命である、と。

 産業革命によって、工業製品が大量に生産できるようになった。その結果、産業の中心

だった(たとえると父や兄的)な農業は、利益の面で完全に負けることになった。

 大量に製品をつくることが出来るようになった国は、外国へも製品を売りたくなる。

 鎖国中だった日本も、ペリーに港を開くように迫られる。

 

 それから、百五十年。日本は、敗戦とオイルショックとバブル崩壊を経験する。

 日本は、政治と町民が切り離れた存在としてある。西洋では市民と政治は直結している。

だから、革命や暴動が起こる。

 江戸時代の士農工商という身分制度で官が統治したのは農民で、町民は物作りやそれを

売って儲けるという生活スタイルだったので、統治の影響を直接受けなかった。(大阪の

堺港に代表されると思う)

 

 世界は、産業革命以後は、工業製品を輸出して富を得る時代にはいったのだけれど、そ

れを一番成功させたのは日本であった。

 ヨーロッパでもアメリカでもない後進国の日本に、安くて質の高い工業製品を輸出され

つづけてはアメリカとしても自国の経済が成り立たない。そこで、日本に農産物をもっと

輸入してくれ、と関税の引き下げを求めてきた。

 著者は、自由貿易と保護貿易に関して、独自の持論を持っておられる。

 すなわち、工業製品ぐらい自国でつくりなさいよ、とアメリカに言えばよかったのであ

る、と。

 ヨーロッパは、日本の工業製品輸出過多に対して、ブランド物(奢侈品)を買うように

奨める。しかし、それもそういう風にもっていったのはアメリカなのだ、と。

 

 日本人は、富んできても「まだまだだ」と思って貯蓄する。

 その結果、世界でのお金の流れが停滞する。

 農業分野、農産物は日本製の方が安全でしかも美味なのである。いくら、関税を引き下

げても日本人は外国の農産物を買わない。そこで、ブランド物を買うように仕向けた。

 あってもなくてもいいもの、にお金を使うことになる。

 

 その後、ITバブルがあり、それも破綻して、今度は架空のお金をあるように見せかけ

た商売の時代にはいる。アメリカのことだが。

 自分たちが質の良い工業製品を作ろうとは思わないで、日本に嫉妬して、「働き蜂には

働かせておけ」と考えて、金融商品の利ざやだけで食べていこうとした。

 それも破綻した。

 

 現代は、発展途上国以外は物が飽和状態。物を創って売るという経済のあり方も限界に

きている。

 復興→繁栄→退廃、と経済は動く。

 そのことは、バブル崩壊をいち早く経験した日本人だから余計わかることである、と。

【加筆】 この経済の動きは、人間の脳の疲れ方&回復の仕方に似ていると思った。

 他の本で読んだことだが、脳は報酬系の要求によってどんどん強い刺激(快楽)を求める。それが、最終的には極度の疲れを伴うので自動的に人間、寝てしまう。たとえば、酒でも、始めはビールぐらいが美味しいのである。それがだんだんと杯を重ねる内に強い度数のアルコールを脳は欲しがる。私の場合、ビール→水割り→ストレートと移る。最後は、疲労が溜まるので、もう身体の方が受け付けなくなる。同様に、経済も、景気が回復してさらに景気がよくなりすぎると、一旦破綻する。

 

 話しが戻るが、誰かが富を蓄えて使わない、となると、誰かが、働いても金に困るとい

う状況が出てくる。沢山稼いでもよいが、死ぬまでに全部使い切ってしまうのが、経済の

ためには良い、と私も思った。

 

 実に、本編の四分の三までが、上記のようなお話で、最終章にきてやっとタイトルと付

合した内容になる。

 

 仕事もなくて収入も少なくて時間だけはある、という状況に追い込まれている人が多い

現代。だからこそ本を読もう、と。

 本には、過去の経験や知識しか書かれていないが、それを自分の知恵とすることで新し

い道が拓けてくるのではないか。(著者がこのように仰有っていたかは正確ではないが)

 どんな本とは指定されない。

 なるべく全てを的確に語ってしまっている本ではなく、読者自身が著者と対話し行間を

推察して読者自身が自分で考える癖をつけられるようなタイプの本を、読もう、と仰有っ

ていた。

 過去のことを知ることによって、未来にどう動くべきかを自分で考えることに繋がる、

ということです。

 

 全編を読んでみて、著者一人の自分を二人にした対話方式の哲学を読んでいるように感

じました。

 この本自体にも、「大不況には本を読む」ことが、ずばりどう良いのか、どの本を読め

ば良いのか、という回答は書かれていませんでした。そういう書き方こそが、哲学であり

文学なのですから。回答を探すことは読者に任されているのでしょう。

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