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『これはペンです』読了(追記あり)

 円城塔(えんじょう とう)さんの、『これはペンです』という単行本の二作収蔵中の一作、タイトル同名作品『これはペンです』を読みました。


これはペンです (新潮文庫)

これはペンです (新潮文庫)

  • 作者: 円城 塔
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/02/28
  • メディア: 文庫

 例によって、感想は追記をお待ちください。

 

   追記・感想

 

 主人公の叔父。この叔父が、そもそも現実に存在するのか、というのが最大の謎ですね。

 主人公は、大学生の女の子。

 その叔父が、世界的な発明をして、その論文をネット上に発表している。

 しかし、叔父は公の場には姿を現さない。

 姪の「私」にだけ、発明・発見の進捗具合を報告するメールや手紙や、ときにはフライ

パンで熱して分解しなくては解読できない磁気のつよい金属の固まりを手紙として送って

くる。

(上記、正確な本編の紹介にはなってないかもです。何しろ読むのに時間がかかりすぎま

したので、記憶が曖昧ですから)

 その叔父が、論文作成装置をつくっていて、それが世間で注目を集めている。学生にも

好評。一つの論文があれば、違った文章でいくらでも独自の論文をつくることができるか

ら。

 また、叔父は、多言語翻訳ソフトもつくっている。

 叔父からは、忘れたころにメールなり手紙が来る。

 世間に隠れている叔父は、その論文開発ソフトのお陰で一生安泰ぐらいの富を築いてい

るので、仕事をやめているが、是非、仕事に復帰すべきとの世間の声も大きい。あれだけ

の才能がある人は、その才能をフル稼働すべきだ、という意味から。

 そういう内容の、叔父に社会復帰を願うメールなどが、主人公(女子大学生)のもとに

は寄せられる。

 女子大学生は、世間に隠れている叔父との、世間からの窓口のような存在になっている。

 しかし、この叔父が、現実に存在しているのかが読んでいても、主人公の心のうちには

いっても分からない。

 何しろ、主人公は叔父には一度も会ったことがないのだ。

 現在通っている大学で、教授との数学か工学かの論旨追究の会話が何度も出てくる。

 この、自分の行っている大学の教授との、論理の対話による追究が、難しいけれども、

なかなかに面白い。それが、ひとつの読み応えでもある。

 そのなかで、叔父の研究についても触れられる。

 そして、とうとう、叔父は、大学の教授たちのチームが作った人格で、現実には存在し

なかったことが分かるのだが。

 本文中で、主人公がこの事実に気付くときの描写は、はっとさせられる。

 どうも、読んでいて、インターネット上に存在する残滓、データを集積した人工物が叔

父なのだ、という風に、読者もだんだん気付いてくるが。

 プログラムの基礎データのネーミング(プログラム言語のなかの符号)に、「oji」と

「moji」の書き間違いがあったのだ、という答えになっている。

 しかし、この小説の面白いところは、主人公が事実に気付いてからも、実母は、「あれ

はねぇ、そういう人なんだよ」とか言って、いかにも叔父、つまり実母の弟か兄、が存在

しているかのように振る舞う実母の言動。

 これがあるゆえに、最後まで、事実がどこにあるのか分からない、という設定になって

いる。そこにファンタジー性がある。

 実母は、何のために、そんな演技をしているのか。大学の教授陣から頼まれたのか。

 本編を読んでも、永久に謎である。

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コメント

  1. 山雨 乃兎 より:

    >xml_xslさん
    ナイスを有り難うございます。(^。^)

  2. 山雨 乃兎 より:

    >ビター・スイートさん
    ナイスを有り難うございます。(^。^)

  3. 健輔 より:

    難しい人ですよ、円城さん。
    芥川賞受賞されましたね。メデタイ話ですが、イマイチ目立て
    なかったですね~。
    ちょっと気になって調べたら、いろいろでてきましたけど、
    http://www.birthday-energy.co.jp
    が面白い解説でした。
    円城さんは、「無欲で平坦」が特徴とか。
    同時受賞の田中さんのインパクトが強すぎて、イマイチ
    はじけなかったけど・・・。
    『これはペンです』も『道化師の蝶』読まなきゃ~。

  4. 山雨 乃兎 より:

    >健輔さん
    コメントを有り難うございます。
    記者会見では田中さんが目立ちすぎて、円城さんの印象が薄くなってしまいましたね。
    今回、作品を読んでいて、かなり難しいことを脳のなかで考えられている人だと思いました。その上にジョークも利いてるしね。
    『道化師の蝶』も読んでみたいと思います。
    また、お寄りくださいね。(^。^)

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  6. 山雨 乃兎 より:

    >sakamonoさん
    気づくのが遅くなってました。
    ナイスを有り難うございます。(^。^)

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