鯨統一郎(くじら とういちろう)さんの、『努力しないで作家になる方法』を読みました。
タイトルに、良い意味で騙されました。
そのことも含めて、感想は、追記をお待ちください。
追記・感想
「努力しないで作家になる方法」というタイトルだから、ハウツー本かエッセイかと思
いましたが、フィクションの小説でした。
しかし、著者の自伝的小説です。
結論から先に言いますが、努力しないで作家になったわけではない。この鯨統一郎さん
は。
何度か諦めて夫婦と子供を養うだけの他の仕事をしての生活で進もうとされますが、や
っぱり鯨さん、自分の一番の得意で納得のいく分野だからこそ、作家になることにこだわ
られた。
その、作家を目指してから処女作が刊行されるまでの十七年の歳月を追った私小説が、
この『努力しないで作家になる方法』です。
出版社やデビューしている作家の名前も実名で出てきますが、どこまでが仮名になって
いるのかは定かではありません。
大学に行かれて、だけど、学業以外のことにのめりこんで中退され、さらに、もう一度
別の大学に行かれて、そこで文学同人誌のサークルにはいられます。
そこで、部長の重責を担われたりしながら、本気で作家を目指すスタートを切られます。
卒業後は、営業の仕事に就かれますが、訳あって、何度かの同業種(営業職)での転職
を繰りかえされます。
その当時から、短編の小説月刊誌の賞に何度も応募され、入選を何度も果たされるけれ
ども、ライバルが次々とデビューしていくのに、ご自身には、デビューの話はありません
でした。入選はされるが、受賞は逃す、ということが延々とつづきます。
その賞も、賞自体がなくなり、或るきっかけから、ミステリの賞に応募されます。
そのミステリの賞も受賞には至らないということが何度もつづくのですが、編集者から
直々の電話があり、編集者からはカテゴリ的に似通った(今までに一度送った作品とと)作品
ということで選考からは外していたけど、力量は認めている、との進言を受けます。
そこから、自分の作品に理解ある編集者からの要請で、七十枚の短編を編集者に言われ
るままに、何度もその都度書き下ろし、その原稿の分量が溜まったところで、やっと出版
になるわけです。
自分が無職のときに、夢を追いかける自分に惚れて結婚してくれた妻。その妻のため、
薄給の営業職を転々としながら、創作をつづけてきた。
妻にも、「もう、諦めて普通の仕事だけに邁進したら」と言われる、という辛い状態も
味わいながら、やっとプロになれた、という話でした。
そこまでの紆余曲折には凄いものがあります。
小説家を目指していることを同僚に打ちあけたときには、「それは、単なる逃避ではな
いか」とまで言われています。
しかし、主人公にしてみれば、ただのこなし仕事をして人より薄給をもらうしかない自
分なのだから。もっと、大学が卒業できていた人には、同じ就職でも条件のいいところが
あるし、実務的にとりたてて自分には身につけたもの(社会で勝負できるもの)がないし、
ということで、小説を書いて暮らしていく方法以外には、一般の人の暮らしに並ぶことも
出来ないのだ、と、ご自身で納得されていましたから、仕事をしながらの投稿生活という
のはつづいたのです。
どういう賞に、どういう作品を書いて応募したら、自分の場合有利か、ということもだ
いぶ悩まれています。
鯨統一郎さんが、確実なデビューをするまでにかかった時間は、この作品を真実と受け
とめると、十七年。しかし、一方僕の方は、小説家を目指してから十九年たった今でも確
実なデビューはできていません。
編集者に認められて商業誌に書けるという段階にはいるまで、そう簡単ではないことを、
つくづく教えてくれます。
この小説が自伝的私小説だとすれば、鯨さんは、作家になるまでに相当苦労されている。
『努力しないで作家になる方法』というタイトルは、読者を釣るための嘘のタイトルですね。
コメント
>ビター・スイートさん
ナイスを有り難うございます。
感想、少しお待ちくださいね。(^。^)