伊集院静さんの、『イザベルに薔薇を』を読みました。
例によって、感想は追記をお待ちください、。
追記・感想
まず、登場人物の名前の付け方が憎い。
主人公、詩人美(シジミ)、その叔父さん、無累(ムール)。貝の名前だ。ムールのルは、野球の塁である。この辺が伊集院さんが野球好きなのを連想させる。
その他にも、風俗嬢、ナギサなど、海に関係する名が多い。三駄(サンダー)など雷だし、麻雀の打ち手、パンタは、「パンダ」を連想させるが、濁らずパンタだ。
物語は、詩人美が無累叔父のところを訪ねるところから始まる。
無累と一緒に競馬を楽しみ、その後、麻雀に興じる。そして、麻雀の打ち手、パンタが旅に出るのに同行して、長期間の海外放浪の旅を敢行。
帰ってきてからは、ヤクザに嵌められていた無累や料理店店主を救うため、相手の仕掛けた賭けの場で対戦。そして、ナギサを救うため、競輪の勝負も行う。
まさに、伊集院ワールド全開ですね。
読み手を楽しませるいささか現実味がないとも言えるストーリー。詩人美の放浪の旅は、勿論旅先でアルバイトなどもしたのかもしれませんが、とくにその記述はなく、ギャンブルで稼いで費用とし、帰路の途中でも旧知の競輪選手を推す男にギャンブルで使ってくれ、と大金を任される。
こういうストーリーだけに、読んでいて爽快です。
また、詩人美と無累、詩人美とナギサの会話に、中原中也が出てくる。お互いに中原中也に造詣が深く、打てば響くように中也の詩を出し合い会話のキャッチボールがされています。
中也の詩に関しても、ギャンブルの心理戦や技術に関しても蘊蓄充分です。
タイトルの「イザベル」は、無累の昔の恋人。
最後は、意外なカタルシスに落ちます。
青春小説です。
青川詩人美は、旅によって人や物事に揉まれて一皮剥けて帰ってきます。
登場人物一人一人に、バックボーンがあります。しかも、それを説明的には書かれていない。でも、読んでいて分かります。
詩人美や無累の気持ちになって楽しめる小説でした。
競輪選手の本番での必死の「もがき」も充分に想像させます。普段の生活を律している姿も分かります。
パンタ老人のストーリーは、虚構ですが、その虚構が作品に深さを与えています。
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