監督:若松孝二 主演:寺島しのぶ 大西信満 の、映画『キャタピラー』を観ました。
何とも重い内容です。
舞台は、日本のある村。時は、太平洋戦争突入直前から終戦まで。
日中戦争に徴兵された黒川久蔵が、4年後、頭部に火傷、声帯も焼かれて声が出ない、耳もほとんど聞こえない、四肢が無い状態で村に帰ってきます。
「不死身の兵士」と新聞に書き立てられ、少尉にまで昇進、勲章ももらいます。
村人たちに、「軍神さま」と呼び崇め称えられた久蔵ですが、親戚たちは、妻であるシゲ子に世話を全て押しつけてしまいます。【一部ウィキペディアから引用】
全編では、久蔵とシゲ子の生活が中心に描かれています。
人間、手足がなくなっても、食欲と性欲はあって、久蔵はシゲ子を求めずにはいられない。
後半で、やっと久蔵と生涯を共に生ききる覚悟を決めたシゲ子でしたが、彼女が開き直ってから久蔵に思うのは、歌にして描かれる「食べて・寝て」の久蔵の無力な生活様式。
久蔵は、口に鉛筆を咥え、文字を書こうとしますが、きちんと書けた文字は、「やりたい」という語句。
一つ思ったのは、四肢がなくて耳も遠くて声も出ないのでは、乙武さんより悲惨だな、ということです。
ストーリーは、『ジョニーは戦場へ行った』と、江戸川乱歩の短編小説『芋虫』をモチーフにして作られたフィクションですが、戦時中に多くの傷痍軍人が居たと考えると、現実でも同じケースがあったと思います。【一部ウィキペディアから引用】
この物語の核は、後半で描かれる主人公、黒川久蔵のトラウマです。
敵地中国で、炎に焼かれる屋敷内で、中国人少女を強姦・虐殺しているのです。
その罪の意識と思いだされるフラッシュバックから、久蔵は、勃起不全になっていきます。
そして、一番言えることは、その核心部分が謎なことです。具体的にまったく描かれていないのです。
中国人少女を強姦・虐殺したのは、単なる欲求からだったのか。そして、家屋が焼かれるなかで強姦をしていたが、そのあと、焼けた柱の下敷きになったから四肢を失ったのか。
或いは、強姦は、上官の命令だったのか。自発的に強姦したのを上官に咎められて、罰として四肢を切り落とされたのか。或いは、少女の親戚に反撃されたのか。
その辺、視聴者が想像してよ、という造りです。
日本が沖縄にまで攻め入られて侵攻されているときに、日本軍優勢という報道をしてるんですね。苦し紛れのプロパガンダだと思いました。その報道で喜んだシゲ子は、小豆粥をつくるのですが、久蔵はそれを受けつけない。砂糖がはいってないんですよ。食料にも困っていた戦時下の時代が上手く描かれています。
とんでもない性(さが)が人間には有る。
戦争が久蔵を癈人にしたというより、久蔵のなかに眠る情欲が、久蔵を癈人にしたのだな、と思いました。
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