黒岩徹さんの、『イギリス式生活術』を読みました。
例によって、感想は追記をお待ちください。
追記・感想
イギリス人は、紳士・淑女であると自認している。
どんな場面でも、紳士的にふるまえることが自負心を納得させている。
どういうことが紳士的であるか。
どんな場面でも慌てない、ということ。
下品な言葉を公の場で口にしない。
たとえば人に責められても、ユーモアで返すことなどだ。
人にコケにされても怒らず、ユーモアで返す。
無償の行為。見返りのないことに全力で取り組むイギリス人も居る。(それは何も慈善
に限らない。)
ドント・パニックの精神というのもある。おもちゃデパートで欲しいものを買ってもら
いたいために駄々をこねていた子供に、母親が「ドント・パニック!」と大声で一喝した
そうである。うろたえては正常な判断ができなくなる、ということを子供の内から教えて
いるようだ。
また、「フェアの精神」という項目では、「それは、クリケットではない」という言葉
が出てきた。クリケットという球技は、審判からも正確には見えない遠いところでボール
を受けた場合、ワンバウンドで受けたのかそのままライナーでとったのかを自己申告しな
ければならない。よって、ジャッジは競技者の良心に任されている部分がある。
「それは、クリケットではない」と言えば、倫理的に正しくない、という意味のようだ。
そういう会話を常日頃からイギリス人はしている。
この正しいかどうかということについて敷衍して、公正と平等は違うということについ
ても後のほうで書かれていた。すなわち、どれだけお腹が空いているかに関係なく全員に
同じ分量のパンを与える、というのが平等で、困っている人を優先させるのが公正だと仰
有っていた。
読んでいくうちに、イギリスのことばかりではなく、アメリカや日本の現状(些末な人
々の行動傾向)についても出てくるのだが。
「マナー」の項目では、ホワイトハウスで銀のナイフやスプーンが、招待客によって持ち
去られる、という出来事についても書かれていた。イギリスのバッキンガム宮殿でも同じ
ようなことが起こっているようで、銀製のスプーン(紋章入り)のが、ステンレスの紋章
なしのものに変えられたというのを著者は招かれたときに体験されているようである。
この「マナー」の項目で何が言いたいのかは、本編を読まれてほしい。
「ストレス解消法」の項では、ストレスを受けても表情に出さないのが美徳で、自分の問
題のことで他に嫌な気分にさせないことが自立した大人と信じて、そうしてきたイギリス
人だったが、近年ではストレスを表に出すように変わってきた、と仰有っていた。この項
を読むと、晩婚化、或いは生涯独身でキャリアウーマンとして生きる人が増えてきたイギ
リスの、それぞれの個人の心の軋みを感ずる。
全編を紹介するのは書評ではなくなってしまうので、あと二つ、興味深かったところを
挙げてみたいと思う。
「携帯電話とインターネット」の項で出てきた話なのだが、クラッカー(ハッカー)が敵
国のコンピュータに侵入することも脅威であり、各国、そのブロックに追われている訳で、
これも戦争と言えるのではないか、と思った。それから、戦争のゲーム(シミュレーショ
ン式の現実とまったく変わらない手応えの戦闘機の)を、イギリスの空軍ショーで、世界
の空軍パイロットが参加して行われたらしいのだが、一層のこと、こういう精巧に現実を
再現できるゲームで戦争を済ませたらどうか、という意見に新奇性を感じた。リアル感は
そのままで、一人の血も流さないで済むからだ。
「トイレ考現学」では、イギリスの金融街シティのオフィスで「ユニセックス・トイレ」
というのが使われはじめて、前後ははっきりしないが、ユニセックストイレで話し合う男
女というのが題材になったテレビ放送の影響もあり、ユニセックストイレが増えつつある
らしいことを述べられていた。
要するに、男女共用のトイレな訳である。
女性の場合は、その場合でも個室にはいって用を足すことに変わりはないし(恐らく、
男性も小便器というのは設置されていないのかも知れない。従って、原則的には覗きなど
は無理な訳だ)、用を足しながらでも、個室同士、或いは、洗面所でお互いに手を洗いな
がら、ちょっとした会話ができるところに良さがあるようである。他愛ない会話を交わす
ことで、人間のストレスは減っていくものであるから、丁度よいのではないか、と思った。
恋愛のきっかけになる場合もあるだろう。
結局、もう一つ項を紹介することになってしまったが、「有名人病」の項では、父親不
足(父親が居ない場合を含む。父親が仕事で時間をとられすぎるために子供と感情的レベ
ルまでの付き合いがない場合など)の子供は自分の男らしさに自信がないため、他人との
関係で攻撃的になる。乱暴になったり他人を汚い言葉でののしったりする。彼らは男らし
さを、血、殺し、武器といったものとかかわることとみなし、詩を書くことではないとす
る。(本文引用)ーーーという事実を知った。精神科医スティーブ・ビダルフの弁である。
どうも、父親というのは社会に出てゆくときのお手本のような役割をしているようだ。
枝葉末節、挙げればきりがない著者の体験とニュースなどに対する著者の論考が詰まっ
ている。
話題は、項ごとにかなり跳ぶのだが、どう生きるべきか、ということを全編を通して語
っておられると感じた。それとともに、現代社会の弊害というのが、日本イギリスを問わ
ず起こっているのだな、ということも感じた。