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『大人のための嘘のたしなみ』読了(追記あり)

 白川道(しらかわ とおる)さんの、『大人のための嘘のたしなみ』を読みました。


大人のための嘘のたしなみ (幻冬舎新書)

大人のための嘘のたしなみ (幻冬舎新書)

  • 作者: 白川 道
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2020/05/31
  • メディア: 新書

 例によって、感想は追記をお待ちください。

 

   追記・感想

 

 何でもかんでも、本当のことを話す、というのでは、人生に遊び(余裕)の部分がなく

なる。

 嘘はあってしかるべき。

 村上春樹氏が以前語られていたのは、言わないこと、も嘘のうちなのだ、ということ。

 白川氏は、嘘を二通りにわけられる。

 急場しのぎにつく嘘と、相手のためにも自分のためにもなる嘘である。

 急場しのぎの嘘は、自分が助かりたいという思いからだけの嘘で、あとでそれが実を結

ぶということはない。

 

 以前、白川さんが普段、書き下ろしを書いていって編集と打ち合わせをして出版なさる

課程を、テレビ番組で見たことがあった。

 その番組でインタビュアーに対して、白川さんが仰有っていたことは、「おれみたいな、

碌でもない奴を取材するなんて、アンタも困った仕事を任されたものだよ」というような

意味のことを仰有っていた。

 私は、ご本人の著作を読んでいないので想像するしかなかったが、無頼派で、ハードボ

イルドな生き方だと、ご本人言いたかったのだろう、と思っていた。

 それが、その意味が、本書を読むことによって、少しは明らかになった。

 白川氏が、最初に就職されたのが、三品相場を扱う会社で、マトモでない人間の集まっ

た世界に浸っておられたらしい。

 その後、その世界からは足抜けされるが、金持ちからはお金を借りて、期日を過ぎても

返さない、しかも、その理由がご本人なりにある、という生き方だから、首肯した。

 随分、危ない目にも遭われているようだし、ご自身で無頼派を名乗っても、その通りだ

と周りが認めざるを得ない生き方である。

 

 つき合いのある大手出版社の社員を見ていて羨ましいと感じることがある。【本文引用】

 コミュニケーションが楽しそうに思えること。狭き門の大手出版社に入社するほとんど

の者が、かなりの高倍率の入社試験を突破してきている。さまざまな面接などの難題を越

えてきた者たちだから、必然的に基本的な教養も備わっているだろう。そして何より同じ

環境に身を置くことになるわけだから、当然のように会話は打てば響くようになる。(中

略)職場でのコミュニケーションはより楽に、よりスピーディーになっていく。(中略)

そのコミュニケーションの効率化は、人間が生きていくうえで意外と得難いものなのだ。

【本文引用】

 と、まあ、このように、大学出で、同じく難しい試験を突破してきた者たちが、教養の

有る無しで言えば或る閾値を超えた教養を保持していることによって、コミュニケーショ

ンが円滑に進められ、尚かつ、会話すること自体が、相手も意味のあることを言うので面

白い、という、良性循環の世界に居る。このことを、白川氏は、自身はすでに企業からは

ドロップアウトしてしまったが、人から羨ましがられる自由な個人という現況よりも得難

い得な境遇である、と論じている。

「白川さんのように、自由に生きられたらいいのになぁ」と周りが羨むことへの内情の打

ち明けである。

 

 ビル・ゲイツ氏と元ライブドア社長の堀江貴文氏の、どこが違うのか、という問題に

もひとつ項目を割いて論じられている。

 堀江氏は、何もつくっていない、と。

 ビル・ゲイツ氏は、システムをつくって大金を儲けたが、その大金にも執着していない、

と。

 この、アイデアや能力から何かを生み出す、そのことに意味があるのだ、と仰有る。

 

 アメリカは、アイドルやカリスマに対しての見方がとてもシビアだ。【本文引用】

 たとえば、アメリカでは芸のない人間、能力のない人間を持ち上げることはない。【本

文引用】

 日本の場合、コマーシャルをどんどんすることによって、何の芸もない、歌も上手くな

い人が、有名人になることがある、ということを叩かれている。アメリカは、たとえ、広

告での情報操作があっても、端末の聴衆が、芸のない者は認めないのだ。

 

 ロクデナシの知人の話として、借金取りに来たヤクザを追い返してしまう知人のことを

紹介されている。

 ヤクザというのは、その行為が違法で懲役をくらった場合、何年刑務所にはいるか、そ

の期間年収いくらの仕事ができていたと仮定するか、で、率の合わない仕事はしないのだ

そうだ。(割が合わないなら、暴力はふるわない。懲役で損をするから)

 だから、たとえ闇金の取り立てが来ても、その友人は、自分が借りた額がささいな額で

あることを認識していたので、反対に大声で追い返していた。

 暴力をふるわれる、と思って萎縮するのが一般の常だが、暴力をふるわれたら警察に駆

けこめばいいのである。その後、懲役になって棒に振る収入との帳尻が合わないと、ヤク

ザも暴力はふるわない、と、高をくくっていた、という友人の話だ。その友人は、だいぶ

ん闇金からの借金を踏み倒したようである。アパート代すらも、大家に払わない、という

徹底ぶりだった。

 

 後半では、三品相場の仕事、が語られる。

 三品相場というのは、農家が、作物をつくるときに、出来上がった頃に商品の値崩れが

起こっていないようにするための安全装置なのである。それで、安心して農家は作付けを

行うことが出来るのだ。

 その三品を、一般の人に売り買いさせることによって、その手数料で儲けるのが、三品

相場の会社である。

 白川さんは、そこに勤められていた。

 中途半端な金持ち、貯金三千万くらいの人を騙して、三品を買わせ、信用取引にさせ、

値が下がってきても、保証金をつぎ込めば、ゆくゆくは上がるから、と言って、どんどん

保証金を出させパンクさせる。それが三品相場や株の取引を持ちかける会社の常套手段だ

そうだ。

 白川さん曰く、知識でも金でも中途半端にあるのが、一番よくない。自分は或る程度知

っているという自負があるから、業者の手管に落ちてしまう、と言う。

 そんな会社が、勝てる取引を掴んだ場合、顧客にその話を持ちかけている暇(時間的タ

イミング)がないらしいので、担当者自らが、そういう場合は購入するそうで、顧客には、

負けるとわかっている三品を負けるとわかっているタイミングで薦めるらしいのだ。しか

も、実際に顧客から預かった金を売り買いに使っている
のではなく。会社全体で買う量が

決まっていて、顧客には、そのうちの一部を買ったことにさせるのだそうだ。

 

 何か、人生の一番えぐいところを、先に見られて、それには飽きて小説家という仕事に

入られたのだ、というのが、読んでいてわかる。

 読んでいて感じたのは、白川さんには、多分普通の人だったら頭を抱えて懊悩するよう

な場面になっても、底を感じない生き方であるなぁ、ということです。

 女のことでも、修羅場をくぐられているようだから、ここまで色んなことを体験したら、

あとの一生は、どんな問題が起きても問題ではないだろう、と思えました。

 嘘を嘘とわかっていて指摘しない姿勢も大事。

 嘘は、ステーキでいう脂のようなもので、それもなくては美味しくない、と仰有ってい

ました。同感です。

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コメント

  1. 山雨 乃兎 より:

    >ビター・スイートさん
    ナイスを有り難うございます。(^。^)

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