村上龍さんの、『ワイン一杯だけの真実』を読みました。
例によって、感想は、追記をお待ちください。
追記・感想
主人公の女たちが、人生で印象に残ったワインを紹介する短編集。
感想としては、全話、主人公は精神疾患かトラウマを持った女性ばかりで、なにか最近
では、その方が普遍的なのかな、と思った。
主人公とつき合う、謎の男性は、著者を投影しているのだな、と思わせる。主人公の世
話を焼いてやるが、深い付き合いはしない。
SMや変態性欲が頻出するが、村上龍氏の日常にも、それはあるのだろうか、と思って
しまう。
女性が、男性から変態的に愛撫されたい、という記述、心情吐露が多いが、それは現実
の女性たちの多くにも当てはまった欲望なのだろうか。村上氏が女性視点で描いているの
で、本当に当たっているのかは謎だ。
女性は、困ったら男に頼る、という生き方が出来て、男性に比べて楽だな、と思った。
勿論、そう生きるにはプライドを捨てないといけないのだが……。
それにしても、相変わらず、読点が少ない文章。しかもひらがなを多用するのでくねる。
見開きをようやく読み終えて、頁をめくると、改行なしのびっしり詰めこんだ文書レイ
アウト。あーあ、しんどくなる。しかし、読んでみると文体に慣れると読みやすい。
読者のとっての新事実、というのも、主人公の発言によって聞かされるので興味深い。
戦いに負けたときに、自分の聖地の井戸に、毒を入れるべき、という話が、とくに興味深
かった。
最終話だけ、毛色が変わっていた。
他の話は、すべて精神疾患かトラウマを抱えた主人公のストーリーなのだが、最終話だ
けは、快活に司会業で暮らすアラサーの女性の話なのだ。
しかし、設定の仕掛けがあった。
どうやら、この主人公は、すでに死んでいて、幽霊として生活しているようなのである。
それまでの、充実した暮らし、と、レギュラーではなくなってしまった余生との対比が
面白い。
最後に、ワインの味を、どう感じるか、という問題だが、たとえば、あの世の味がする、
という捉えられかたも、現実にもそう言われているのか、村上龍氏が作品に吹き込んだ評
判なのか、どちらでもいいわけで、むしろフィクションで書かれているならば、その創作
力に感銘する。