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先日、困ったことがあった。

 ファンが、「先生、これ絶対読んだほうがいいですよ」という本があったので、アマゾンで買った。

 ハードボイルド・エンターテインメント長編である。

 僕は、読書スピードがかなり遅いので、主に寝る前に本は読んでいる。

 歯医者行きがあったので、この際だから待ち時間に、その本を読もうと思って持っていった。

 鞄に入れて運べばよかったのだが、手数が増えるのが嫌だったので、ウインドブレーカーのポケットにしのばせた。

 季節は、初春。

 歯医者に着く直前に、便意をもよおしたので、近くの公衆トイレにはいった。

 用を足したあと、立ったのだが、その瞬間に、ポケットから本が落ちた。

 古ぼけた公衆トイレである。

 その、少し濡れている床のタイルのうえに、本が落ちたのだ。

 トイレットペーパーで拭いて、歯医者には持っていったが、結局読まなかった。

 自宅に帰ってから、どうしてやろうかと悩んだ。

 廃棄して、同じタイトルの新品を買う。

 いや、もったいない。

 そこで、消毒することにした。

 普段のんでいるウイスキーを原液のままティッシュにしたため、本を全体的に拭いた。

 しかし、現在になっても、その本はあまり読んでいない。

 人間、気分が大事だからなァ。

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