張 賢徳(ちょう よしのり)さんの、『人はなぜ自殺するのか(心理学的剖検調査から見えてくるもの)』を読みました。
人はなぜ自殺するのか―心理学的剖検調査から見えてくるもの (精神科医からのメッセージ)
- 作者: 張 賢徳
- 出版社/メーカー: 勉誠出版
- 発売日: 2006/12
- メディア: 単行本
暗い話題(素材)は恣意的に避けて過ごすというのも、それはそれで一つの好ましい生き方かも知れませんが、僕は、深刻に悩む問題こそ、根本的な原因追究をすべきだ、と今回思って、この本を借りてきました。
自殺者の心理学的剖検調査
この本の主な内容を表すと、張 賢徳さんが、1993年の日本に於いて、自殺者の心理学的剖検調査をされた結果から分かったことを記された本です。
心理学的剖検調査の自殺者に対しての調査は、アメリカでは既になされていたのだそうです。
心理学的剖検調査の自殺者に対しての調査とは、自殺した本人が、なぜ死んだのか、どういう動機だったのか、精神疾病を持っていたのかいなかったのか、を、遺族や友人に聞き取り調査して、統計学的に、特に、自殺者(既遂者)の中に、どの程度の精神障害を持った人が居たのかを結論づける調査のことです。
張氏は、1993年当時、アメリカの大学院生で、この時期しかまとまった調査に動ける時期はないと決断されて調査をされました。
でも、日本の場合、自殺者の家族は「そっとしておいて欲しい」「何の義務があって答えなければならないのか!?」という反発や、お叱りもお受けになったそうで、まず、第一に法的に或る特定地域の聞き取り調査をしようと思うと、役所(この場合、東京なので、東京都観察医務院)で自殺者のデータを見る、という処から始めなければならないし、統計学的な数字を出そうとすれば、その全数、或いは無作為に抽出した或る程度の数の調査対象を調べ、そのそれぞれの遺族または一番自殺者に近い関係にある人に連絡をとって面接をする必要がある訳です。著者は、当時一人で、観察医務院の院長に会い、調査協力を依頼されたそうです。結局、或る救急病院での二年間の自殺者に限っての個人(遺族または近しい人)への調査依頼をしてよい、との答えをもらったそうです。それでも、慎重に、遺族に心を第一に、一番の近親者(配偶者または両親のうち一人)に手紙を親展で送り、協力を依頼した上で、一週間より後に遺族から連絡がなかった場合のみこちらから電話する(その旨も手紙に書き記す)という方法をとられたそうです。
自殺の原因 自殺に至る経緯
日本での調査の結果、自殺者の89パーセントが自殺時に何らかの精神障害に罹患していたそうです。この中には専門の病院に通っていなかった人も含まれます。また、自殺前の短い期間に急激に精神障害的な状態に近いところまで気分が落ち込んでいた例も含まれるそうです。
アメリカの調査で既に出ていた自殺者のなかに含まれる精神障害の割合も同じく90パーセントです。
この本を読んでいて、自分の場合のそのものズバリだった箇所が有ります。
精神障害の統合失調症の患者は、自殺念慮や希死念慮が高い、という事です。そして、統合失調症の既遂者の場合は、内省できる程回復しているときに、将来を悲観して、或いは、家族にもうこれ以上迷惑はかけられない等と思って、正常な判断ができる状態で死を選ぶ場合が多い、という事です。
張さんは、思いやりのある考え方で、彼ら(統合失調症の患者)にも社会が容認する空気が必要、さらに、社会参加がしやすい社会システムなども必要だと書かれていました。
自殺者(既遂者)の内の精神障害の内訳は、一番多いのが鬱病らしいです。
鬱病の場合は、気分が落ち込んで、乖離(かいり)(我を忘れて知らない間に行動だけとってしまう)がある場合、そして、視野狭窄(自殺する以外の選択肢を考えられなくなっている状況)が起こっているそうです。
後で、未遂者に、自殺行動をとったときの事を訊くと、「何故、自分が、あんなことを考えたのか、自分でもよくわからない」という答えをする人が圧倒的に多いそうです。それだけ、乖離が進んでいることが多いということでしょう。鬱病の場合、正常な判断ができない状態で自殺既遂にまで至っているということです。ですから、治療を受けることが急がれる訳です。
アメリカの場合、自殺者の精神障害のパーセンテージは多い順に、鬱病、アルコール障害・薬物依存症、統合失調症。日本の場合、鬱病、統合失調症、アルコール・薬物依存症。
鬱病の場合は、なるべく早く医師にカウンセリングを受けて、投薬治療をすることが望ましいです。本人にも、なぜ、自殺念慮が出てくるのか分からない状況で既遂にまで至ってしまうケースが多いからです。
日本には、理性的な判断が出来る場合、自殺は、本人の意志を尊重すべきで美しい行為だ、という考え方も有ります。(僕が、その考えに近いですが)
でも、決して幸福な社会とは言えないだろう。自殺者の多い社会は。と、張さんは仰有っています。
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希死念慮で行き詰まったら、取るべき行動
もし、死ぬほど悩んでいたら、この本を読んでみてください。現状の理解の助けにはなりますし、解決策も自ら浮かぶかも知れません。
自分だけで悩みを抱え込んで、誰にも相談しない場合には既遂にまで至ってしまうケースが多いそうです。
今でも、「命の電話」という相談窓口が有りますし、国が「命の電話」に対しても経済的援助をするようになったそうです。
この本は、充分に読む価値のある本でした。たとえ、自分に自殺念慮がなくても、身近な人を救うこともできます。
実は、張氏自身が、友人の自殺を食い止められなかったという自責感から、このような研究をされたそうです。
競争はあっても、弱い(調子の悪い人)も健やかに生活できる社会であることは望ましいことです。
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