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『島田荘司のミステリー教室』読了(追記あり)

 島田荘司さんの、『島田荘司のミステリー教室』を読みました。


島田荘司のミステリー教室 (SSKノベルス)

島田荘司のミステリー教室 (SSKノベルス)

  • 作者: 島田荘司
  • 出版社/メーカー: 南雲堂
  • 発売日: 2015/09/08
  • メディア: Kindle版

 例によって、感想は追記をお待ちください。

 

   追記・感想

 

 「本格」ミステリーを、在野の新人には是非書いてほしいということだった。

 ヴァンダインが提唱し、実践していた「本格」ミステリーが、日本には今のところ(現

在までにでも)数少ない、と。

【私の本編の把握が不十分であるかも知れないので、感想・紹介に間違ったところがある

かも知れませんので、詳しくは、本編をお読みください。と前置きしておきます。】

 「本格」とは、推理小説に於ける「謎」があって、その謎が理論的に破綻なく解かれる

という推理小説の構造、そういう推理小説のことを「本格」と呼ばれている。しかも、読

者を唸らせるぐらいの簡単に解けない謎である必要がある。

 一方、ミステリーとは、幻想的要素のこと。つまり、ファンタジー性があるかどうか。

 現実にありえない事象とか、今まで目にしたことがない現象とかが描かれているかどう

か。

 「本格」ミステリーとは、この両方の要素を持つ、推理小説のことなのである。

 

 著者は、推理小説の分野が隆盛してほしいと望まれる。

 謎を解く考え方の癖が身につくので、読者も著者も意識してニュースや普段の身の回り

の出来事を観るようになる、というのが、その理由の第一点。

 それから、ミステリーでも、充分に人間を描くことが出来る、というのがある。

 犯罪は悪いことではあるが、どうしてそんな犯行に至ったのかを語る(或いは解き明か

される)とき、どうしようもない読者が納得させられる理由に行き当たる。そこに、人間

の造詣を盛り込むことが出来るのだ。

 

 ポー、ドイルといったパイオニアの小説スタイルがあり、それはなかなか日本には定着

しなかった。日本では陪審員制度もなく、一般市民である探偵が謎を解くというのが現実

離れして受け入れられなかったという事情があるらしい。(ここ、かなり間違っているか

も知れませんので、本編でご確認を)

 日本では、江戸川乱歩氏が見せ物小屋的な要素をたぶんに取り入れてきたが、「本格」

の謎解き路線からはだいぶ離れてしまった。ファンタジー性は充分だったのだが。のちに

「変格」というジャンルとしてこの路線も定着することになる。

 松本清張氏の登場で、推理小説は、文学性をも身につけた「本格推理」の傾向にはいる。

 しかし、敢えて著者が仰有るのは、清張さんの作品は尊敬するが、ミステリーの要素は

薄くなってしまっている、と。

 以降、「コード型」というジャンルが台頭する。

 すなわち、神の視点で書かれた、登場人物の誰一人にもバックボーンを持たせない、駒

として自由に動かす推理物だ。読者は気兼ねなくゲーム感覚で楽しむことが出来る。

 しかし、島田さんにしてみれば、「コード型」も最良の形とは云えない。

 「本格」であって、幻想性があるミステリーで、人間のバックボーンをも描けている、

そういう小説に沢山出てきてほしい、ということだ。

 幻想性(ミステリー)の部分は、異境譚とか、幽霊話とかがある訳だが、どれも現代と

なっては新奇性を読者が感じなくなっている。

 そこで、最終的に未だ科学でも完全には解き明かされていない領域が「脳」ではないの

か、と仰有る。

 たとえば、記憶喪失をテーマにして、その記憶の蘇り方を工夫するとか、幻肢痛という

のがあるが、失った手足、または、身体本体(たとえば、自分の妻や身近な友人を亡くし

た場合)との幻肢感覚を使った作品とかは描けないものだろうか、と。

 「脳」の分野に、まだ開拓されていないフロンティアがある、という意味のことを仰有

っていた。

 

 本編、前半三分の二までのメインは、在野のプロを目指す人とのQ&Aを(場所などが

違うディスカッションを)、全体に流れが自然なように配置し加筆もされたものだ。

 新人賞には原稿用紙で応募する方がよいのか、などと言ったあまりにも基礎的で聞きに

くい質問にも懇切丁寧に応えられている。

 たとえば、持ち込みの場合、長編でなければチャンスがない現状とか。

 

 巻末には、ミステリーを書くモチベーションとして、普段の生活で疑問に思うことを調

査してみるというご自身の実践体験も載っている。自殺者が多いと、不景気だから、と、

碌に調べもしないで、青年、中年層のリストラが原因と決めつける人が多いが、自殺者層

として一番多いのは75歳以上の老人であることが分かった。しかし、この問題は社会で

取りあげて大騒ぎすべきでない微妙な問題であることも同時に分かられた。

 

 推理小説は、何も、絶対に殺人が起こらなくてはならないということもない。

 なぜ、こういう現実になっているのか、という謎を意識して、そこを解明していくこと

が推理の醍醐味である。

 

 感想としては、私もミステリーを書いてみたいが、この分野はそうそう簡単には書けな

い、と、読む前にも読んだあとにも思っている。

 何よりも、「本格」たる理論の構造、すなわち、この人が犯人であることは間違いない、

という証拠、そして、その動機、犯行の手順の込み入ったトリックなどを、最初にプロッ

トとして作り上げる必要があるからだ。

 この分野で量産ができる人には頭が下がる。

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