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小説執筆の相棒:28歳から使い続ける万年筆と「中字」のこだわり

 世間でよく買われる万年筆は、ペン先が細字の物が多いですね。
 日本人の一般の人は、手帳にメモするときに万年筆をつかいますから。

 ただ僕は、主に小説執筆に万年筆をつかいますので、中字か太字のものを好みます。
 充分なインク量が出て、紙面を滑る感覚を愉しみながら書くためです。
 文字も原稿用紙やA4の紙に、大きく書きますからね。

 これまでに色んな万年筆をつかってきましたが、ほとんどは買っては売っての繰りかえしでした。
 結局、今でもつかっている万年筆は、28歳のときに文房具屋で自腹で買った、パイロット社の中字、ペン先14金のロング軸です。

 或るとき、胴軸をタバコで焦がしてしまいましたが、今でもつかっています。
 結局、これが一番手になじみます。それに、長年これで書いてきたので、ペンポイントが私の癖どおりにいい具合にすり減っています。

 28歳当時の私は、縫製の会社に勤めていました。
 毎日、刺繍のデザイン画を描かされますが、そのデザインは始めから上司は採用するつもりはありません。つまり当時の私は、若いのに窓際族だったのです。
 毎日上司に無能扱いされていました。

 仕事の帰りに地元の文具屋に寄りました。
「おれは、こんなところで一生を終わらない。必ず小説家に成るんだ」
 そう内心で思い、店先で店主が常連客に見せている木箱の中から、この万年筆を選びました。
 7千円という金額は、当時薄給の私にはきつかったです。

 余談ですが、日本語で小説原稿を書くなら、断然日本製の万年筆がおすすめです。
 ペン先の角度やしなり具合が、外国製とは違って日本語が書きやすいようにできています。

 インク瓶からコンバーターで吸い上げてインクを補充する、というのも儀式めいて愉しいですが、私の場合は、原稿執筆の勢いを止めないために、カートリッジを交換します。この方が、手も汚れませんし、断然早いです。

 私の既刊本、14作の作品は、どれもこの万年筆で草稿を起こしています。

 私はこのブログで万年筆の魅力を綴ってきましたが、実は長年、その万年筆を相棒に物語を紡いできた小説家でもあります。

 インクが紙に染み込むように、人の心の奥底にある「光と影」をすくい上げたい——。そんな想いで書き上げたのが、私の代表作『閉鎖病棟』です。

 閉ざされた場所で交錯する、剥き出しの人間模様。 作家として「本当に面白い、価値のあるものを届けたい」という一心で、一文字ずつ丁寧に命を吹き込みました。

 万年筆を愛するあなたなら、きっとこの物語の「手触り」を感じていただけるはずです。

 画面を閉じる前に、ぜひ一度、私の本の世界を覗いてみてください。

万年筆
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