古川千里さんの、『恩送り、そして今を生きる ~5つの別れに教えられたこと~』を読みました。
私が本文レイアウトをお手伝いさせていただいた作品です。
感想
泣けました。
本編を読んでいて、合計4回は泣いたと思います。
身内の方の死、また、死に至るまでの経緯やご本人や主人公の気持ちが、独白だけでなく言動の描写でも詳細に描かれていて、だから感情移入して泣いてしまいます。
小説ではなく、著者の半生記とも言える作品ですが、著者は有名人でもないのに、ここまで感情移入することは稀な作品だと思います。
もう、涙ポロポロです。
生い立ちから始まり、どんな家庭環境で育ったのかが語られ、嫁いでからの義両親との内心での葛藤も見事に描かれています。
著者は、私と同い年なので、昭和の倫理観で厳しい親世代に、細かく躾けられたことも共感できました。
とくに、義父さんや義母さんに対して、内心で思っていてもお互いに言葉に出して踏み込めない状態のまま、だけど、「本当は、こう思われているのじゃないか」という心中のストレスを文章から読み取れました。
しかし、義父さんや義母さんも、実は心中ではお嫁さんである主人公を労っている気持ちを持っておられることも分かります。
夫の家で3世代で生活する。
そして、近所付き合いや職場の人間関係もある。
そういう普段からの濃い人間関係があるからこそ、また、身近な人が亡くなったときの悲しみも大きいのでしょう。
そして、亡くなった人たちは、それぞれに主人公に、暮らしの知恵とも言える格言的な言葉も残してくれました。
その言葉のなかで私が一番印象に残ったのは、主人公の実母が普段から言っていた言葉、
「まさかの坂に備えなさい」です。
人生、何が起こるか分からないから、女でも手に職をつけ、自分で生計が立てられるようにしておきなさい、という意味です。
嫁いだ先では、主人公は子供が小さいうちから短い時間ですが仕事に出ますが、義母は、内心では、家のことを一番にするのが女の生き方だと思っているようで、お互い口に出しはしませんが内心でギクシャクします。
これは、葛藤ですね。
実母は、仕事をするのが大事という教えをしたのに……。
この時期の心の描写が、気持ちが二転三転して深く描かれていました。
5つの別れのうち、一番主人公にとってショックだったのは、私が分かるわけではなく推測に過ぎませんが、お姉さんの突然の死でしょう。
生前活発で、太陽のような存在だったお姉さん。
日常のことから、大きな決断の相談まで、すぐに訊けていた相手です。
人間、いつ亡くなるかは、誰にも分かりません。
しかし、会話したことがある相手は、必ず自分に何かを残してくれている。もしくは影響を及ぼしている、ということを再認識しました。
「恩送り」という言葉、初めて聞きました。
自分が受けた恩を、次の世代に返す、という意味らしいです。
人間には、永遠の命は有りませんが、命のリレーは有る、ということを思いました。
心に染みいる作品、ありがとうございました。


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